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楽譜をつくる

オンラインで購入できるソロギターアレンジ譜を作った。作曲家とメールを通して校正作業をしながら、ふと、そのむかし音楽出版社で楽譜校正の仕事をさせて頂いた時のことを思いだした。

様々な楽譜を出版するこの会社では、毎回ひとつの楽譜に少なくとも3人の校正者がついていた。

校正者は原稿コピーや仮印刷された楽譜の中の修正すべき箇所に、手書きで赤色の文字(や記号)を書き込んでいく。 楽譜に長い文章で説明を書くのは相手にとって読みにくいだけなので、できるだけ記号や数字だけできちんと意味が伝わるよう書いていく。

初めてこの作業をしたとき、校正をする人たちが専門知識を持っていることはもちろん、みんなとてもわかりやすい「綺麗」な文字を書くことに驚いた。五線譜やTAB譜はこまかく、書き込む数字や音符が数ミリずれただけで正しい情報が次の校正者に伝わらなくなってしまう。だからみんな自然と丁寧に書き込むようになるのだが、ある時TAB譜に書き込まれた赤い数字がはっとするほど綺麗で、思わず観入ってしまった。「校正」というと単に「間違い探しをする人」と思われるかもしれない。でも楽譜に真剣に向き合っている彼女が書いた数字は美しく、ああこれは彼女の楽譜へのリスペクトなんだ、と思った。そして、そうやって何回も、何人もの目を通して作られた楽譜には、出来上がったときどこかソリッドな印象があった。赤い文字は完成したら見えなくなるのだけれど、見えないだけで、ちゃんと楽譜の中でいきているんだよな、と思った。

今、いろんな方法で「楽譜」が手に入る。従来通り紙に印刷されているものもあれば、ネット上からダウンロードできるものもある。媒体はなんであれ、楽譜は音楽を記録する手段である。なんで記録するのだろう。自分のためだろうか。記録しないと消えてしまうからだろうか?いろいろ考えてみたが、結局のところ「楽譜をつくる」のは、その音楽を「いつか自分以外の誰かが弾けるようにのこしておく」ためなんじゃないかな、と思った。

誰がどこで、その楽譜を必要とするのかはわからない。いつまで経っても来ないかもしれないし、ようやく誰かが楽譜を手にとったとき、もしかしたら自分はもうとっくにいなくなっている可能性だってある。それでも作って、いつか誰かが「弾きたい」と思ったときにいつでも弾けるよう、ニュートラルな記号を使ってのこしておく。なんてロマンチックなんだろう、と思った。まるで時空を超えて、みんなでせっせとタイムカプセルを作っているみたいだ。笑っちゃうけれど、でも、それって素敵だな、と思った。

 ソロギターオンライン楽譜
「捨ててよ、安達さん。」

-throw me away, Ms. Adachi-  作曲・侘美秀俊、ソロギターアレンジ・日渡奈那

五線譜(運指付き)https://store.piascore.com/scores/67082

TAB譜 https://store.piascore.com/scores/67103

「捨ててよ、安達さん。」ソロギター・ヴァージョン演奏動画
https://www.youtube.com/watch?v=xjZzqTnq5k0