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いびつな星座

音楽学校の授業がオンラインに切り替わってから5週間が過ぎ、先日教師たちの意見交換が行われた。その中に「オンラインレッスンでは教師-生徒間の縦のつながりは可能だが、生徒どうしの横のつながりが少なくなっている」という指摘があった。

ギターは基本的に一匹オオカミ的なところがあるから無理に仲良くする必要はないと思うけれど、それでも生徒たちは発表会やアンサンブルを通してお互いのことをなんとなく知っているし、普通の学校も閉鎖して友達にも会うことができない今、何かつながりを感じられるのはいいことかもしれない、と思った。そして唐突だが「Zeig deine Gitarren-Hits(きみのギターヒットを聴かせてくれ)」という企画を思いついた。

生徒に自分の好きな曲を教えてもらい、それを私がまとめてクラス全員が聴けるようにメールで一斉に送るという単純なアイデアだ。このさいジャンルは関係なし、唯一の条件は「曲の中でギターが使われていること」にした。

はじめてみて、これは結構責任重大だぞ、と感じた。子供達が「この曲が好きです」と曲のタイトルを伝えるとき、その表情が一瞬真剣になるのがPCの画面を通してもわかった。

とても大切なもの、そして大切に扱わないと一瞬で壊れてしまうものを託されたような気がして、「ありがとう、大事に聴いてみるね」と伝えた。

「音楽は聴かない」と言う子もいた。じゃあまとめたものを送るよ、と伝え、親へのメールか、彼の携帯どちらに届けたらいい?と訊いたら「自分の携帯がいい」と言った。絶対届けよう、と思った。

さて、星の数ほどあるネット上の音楽動画の中から彼らが持ってきてくれた曲はじつに様々だった。静かなラップがあるかと思えば、おおこんな古い曲聴くのね!と私がびっくりするような曲、女の子パワー全開なポップや洒落たジャズ調、ヘビメタロックまで、確かに全部「ギターが入って」いた。それは私にとってすごく新鮮で、この子の頭の中ではこんな曲が流れていたんだなぁと感動すると同時に、ああ私は全然わかってなかったんだな、と思った。

曲をまとめることに関しても、はじめ「聴きやすいようにカテゴリーに分けてあげよう」とか「コメントつけてあげなきゃ」とか考えていた。でも聴いていくうちに、そういうことじゃないんだ、と気がついた。もともと統一性を求めているわけじゃないし、それをしてしまうと何かが崩れていく。このままで十分だよな、と思った。もちろんレッスンでは曲のコード進行など教えていくことはできるけれど、今は私が野暮なコメントや枠を作るのではなく、ただそのままを聴けるようにして送るのがいちばんのリスペクトである気がした。

昨夜この「ヒット集」作業をすべく並べた曲を通して聴いていくうちに、なんだか泣けてきそうになった。オンラインレッスンではやはり音質等に限界があることを痛感したのも理由のひとつかもしれない。そして何度も聴いていると、ランダムに並べたはずなのにそこにある種の「つながり」を感じ取ろうとしている自分がいることにも気がついた。鋭いもの、鈍い光を放つもの、つなぎ合わせてみたそれは、いびつな星座のようだった。

そして本日(4月29日)、スイス政府は新型コロナウイルスに伴う行動制限措置の段階的緩和を発表、5月11日より小学校の再開と同時に音楽学校が再び校舎で授業をすることが許可された。発表を聞いて、それまで張りつめていた全身の力が抜けていくのを感じた。再び「通常」になったあとどのような状況になっていくのかわからない。でも私たちは次の段階を試していかなければならない。

この音源を早く届けよう。そしてこれは一回限りで充分だ。次に全員に会うときは、本当に会うんだ。