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メリーゴーランドを回すひと

スイスに来て人が手で回すメリーゴーランドがあることを知った。それは小さな子供用のメリーゴーランドで、小ぶりではあるものの天井から下がるレトロな棒にはそれなりに立派な馬やニワトリの形をした乗り物がついていて、中央には大きなハンドルのようなものがある。お客が来たらメリーゴーランド屋さんがそれを手で回すらしい。あれはどれだけ速く回るのかまだ見たことがないのだが、自分にとってかなり衝撃的なメリーゴーランドだった。

先日音楽学校が企画する「Instrumentenkarussell(楽器のメリーゴーランド)」という5歳から9歳までの子供を対象とした講座でギターを含む撥弦楽器について紹介した。土曜日の朝9回にわたり行われるこの講座では鍵盤楽器や擦弦楽器、木管楽器や打楽器などが毎回それぞれの講師によって紹介される。子供達は全ての楽器を実際に触って、最終的に自分がやりたい楽器を選んでいく。講座自体は毎年行われていて、今回は32名の子供達がそれぞれ10人程度のグループに分かれて参加していた。

参加する子供達のタイプは様々だ。数年前この講座に参加したのちクラシックギターを選んで私のクラスにきた女の子は両親のサポートも厚く、毎回きちんと取り組んで確実に成長している。

エレキベースでPrinceのLet’s Go Crazyのスラップフレーズを弾いて聴かせたら「オレ(←とあえて言わせてもらおう)、ベースにする。」と断言した男の子がいた。いつかカッコいいベーシストになって舞台に立ってくれ、と思った。

ルネサンスリュートを気に入った6歳の女の子もいた。私も彼女のお父さんもびっくりしたが、講座が終わった後彼女はおもむろにケースからリュートを大事そうに取り出し、にっこり笑った。それをみて、私はまだまだ固定観念にとらわれているのかもしれないな、と感じた。

さて、今回最後のグループにとても高い声を出してふざけてしまう男の子がいた。興味がないわけではないのだけれど、みんなの前でふざけはじめた手前、途中でやめることができなくなってしまっている感があった。そのうち「ぼくお家に帰る!」と言って部屋から出て行った。どうするかな、とみていたら5秒くらいしてから「ふでばこ忘れたから戻ってきた!」と帰ってきた。

良いアイデアを思いついた彼に、なんだか笑ってしまった。その彼は父親が迎えに来たとき、自分のお父さんの前で一生懸命エレキギターを弾いていた。とても長い間、真剣に父親に聴かせて説得しようとしている姿はまるで別人のようで、こちらも左手のコードを押さえていろんなハーモニーになるようにちょっと手伝ってあげた。タトゥーの入った腕を組み、小さな息子の前に立ってじっと聴いていた彼の父親は最後に「良い楽器だな。」と言った。それがどういう結論を意味するのかわからないけれど、もし彼にとってエレキギターが一生大事な楽器になるとしたらどんなに良いだろう、と思った。

メリーゴーランドはいつか止まる。いつか止まって、みんな降りる。それまでに1つに決めること、自分で選ぶこと。それぞれの子供の選択をはたから眺めながら、あのレトロなメリーゴーランドと、そのハンドルを回すメリーゴーランド屋さんを思い出した。