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リロンちゃん

理論の本が好きだ。

一番好きなのは『ポピュラー音楽のための基礎理論&問題集〜新音楽理論ワークブック』(北川祐・編著、株式会社リットーミュージック)で、そのむかし江部賢一先生に「ポピュラー理論について学びたいんです」と言ったとき「この本を買いなさい」と勧めていただいた。1994年に初版が発売されてからロングセラーとして愛されてきた本だそうで、私が持っているものは2000年に発刊された第2版(上下2冊)。基本的な楽典から最終的には教会旋法(チャーチモード)を含む「コード・スケールの考え方」が学べる。簡潔かつ明解な解説で、各テーマの終わりに出てくる問題のページが素晴らしい。ストイックなまでにひたすら音符やコードネームを書き込んでいくのだが、自分で書いていくうちに、だんだん意味やパターンが分かってくるようにできている。また、どんなにややこしいテーマでも問題のページは片面1ページのみ、そしてページをぱっとめくるとすぐに答えが確認できるのも嬉しい。しかも時々ギタリスト用の問題も出てくる(←コードを「記譜音を最上声部として1〜4弦を使ったフォームで指板上に構成し、その構成音を音符で記入しなさい」とか)。スケールの指板図も入っている。答えをちゃんと書き込めるスペースが用意されているので無理なく書き込めるし、書き込んだ後は「自分はここまでやったぞ感」がけっこう出てくる。長いコードネームや教会旋法のしくみがわかった時、嬉しさのあまり大声で叫んで走りたくなった。

この本はワークブックだったが、読み物もいろいろある。古くからの知人でギターソロ曲も書いてくれた作曲家・侘美秀俊氏はなんとマンガで音楽理論について説明している。『マンガでわかる!音楽理論』(侘美秀俊・監修、坂本輝弥・マンガ、株式会社リットーミュージック)という本で、保育士を目指す女子大生「リロンちゃん」と、自称作・編曲家の「センセー」とのお話でストーリーが進められていく。完全8度を転回すると1度になる、ということに気づいたリロンちゃんに対するセンセーのセリフがすごい。「ロマンチックだろ?オクターブ中最も離れていた音たちが転回によりすぐ近くに!!遠いようで近いまるで君と君の友人のようではないか!!(本文より引用)」その後センセーは速攻リロンちゃんにツッコミを入れられてしまうのだが、言いたいことの意味はすごくわかる。そして、たとえがどうであれ理論を熱く語れるっていいなぁと思った。彼は他にも様々な理論書を執筆していて、読みやすい。ちなみに表紙のイラストでリロンちゃんが弾いている楽器はギターだ。

本ではないが、理論を深く理解し和声にいのちを与え、音を生きもののように扱える人といえば、私にとってはやはりギリア先生だ。作品の中にある一つひとつの音が劇場のように役割を持って配置され、生き生きと「事件」を起こしていく。時に大げさな表現で生徒に語るが、きちんと理論に基づいているので説得力がある。「いいかナナ、この曲では様々な音がおまえを振り落そうと襲いかかってくる。だがお前はこの核の音にしっかりつかまって進むんだ。振り落とされるんじゃないぞ!」と言われたことがある。和声進行が複雑に変化していくからどの音に重きを置いて、どうやって他の音とバランスをとるべきか、という話だったのだが、なんだか「人生みたいだな」と思った。音楽理論から学べることは、理論にとどまらない。

奥の深い音楽理論の世界で、私が知っていることはまだまだほんの一部だ。だからこれからもいろんな理論の本を読みたい。そしてこのドキドキワクワクな世界を自分なりの言葉で、生徒たちに伝えていきたい。 

侘美秀俊氏のその他の著書
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