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墨が乾くまで

今月「プロジェクト1027」第二弾企画として「White」という動画を作った。

「White」というタイトルからハーモニカ世界チャンピオンの大竹英二氏が作ったハ長調のメロディに、調性も拍割りもずらしたギターを入れた。はじめは前回作った「Summer Valentine」と同じように「しつけ糸方式」で録音しようとしていたのだが(詳しくは2020年8月ブログ「しつけ糸をたどって」をご覧下さい)、詩画家の本間ちひろちゃんの意見で今回はあえてテンポを指定せず大竹さんにメロディを自由に吹いてもらい、そこにギターで別のハコを作っていく方式「大竹弁当箱方式(本間ちひろ命名)」で録音していくことになった。大竹さんがよくFBに写真を投稿しているお弁当のように、その中身は容器が変わると詰め方が変わっていくことにインスピレーションを受けた。そして、はじめイントロに入れていたお洒落なコードもすべてカットし、木から雪がどさっと落ちる音や、森の中で黒い鳥が鳴く音などを入れた。なんというか、今回自分としては大竹さんが一人雪の野原を楽しそうに歩いているところに、「白ってそんなに優しいだけじゃないよね」と、吹雪や白の不安をギターで表現してみたいと思った。

さて、録音してから2ヶ月後、本間ちゃんが動画を作成・公開してくれた。彼女が和紙と墨で作ってくれた動画を見終わったとき、正直私には白ではなく黒のインパクトの方が強くて、なんだか笑ってしまった。私は特に、後半部分で和紙に垂らされる生々しい黒に惹かれた。そして、この原画を紹介したい方がいたので、スイスまで送ってもらうことにした。巻物のように作られた絵は青の色を付けた和紙に包まれていて、それがとても綺麗だった。

さて、いよいよその絵を持って他の方と一緒に見ることになった。テーブルの上でその方々と一緒に巻物を開いた時、あっ、と思った。どうして気がつかなかったのか不思議なのだが、最後の絵の墨は乾いて、映像のそれとは色が違っていた。オリジナルである原画には、私の好きだった墨の色はなくなっていた。それを見た時、ああ、あれはあの一瞬しか生命を持たない色だったんだ、と気がついた。そして、映像にしていなかったら彼女しか見れなかった色を、私は今回の動画で見せてもらっていたんだなぁと思った。それは私にとって今回一番衝撃的な事実だった。なぜなら、これまで私は色は音と違って「消えない」ものだと思っていたから。それを羨ましいとも思っていた。でも、そうじゃない色もあるんだということを知った。

墨が乾くまで、それはなんと音とちかい存在なのだろう。


「White」動画:

https://www.youtube.com/watch?v=hM6eckNAep4

ブログ写真の絵:本間ちひろ画