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春のにがみ

春になると苦いものを食べたくなる。

ふきのとうはにがい。子供の頃、母や祖母や妹と一緒に摘んだつくしも、摘むのは好きだったけれど子どもの私にはやっぱり苦かった。それなのに大人になった今、無性に食べたいと思う。べつに何十個も食べたいわけではない。でもあの苦味が懐かしい。

料理の世界では苦味も使い方次第、量によってはある種の「隠し味」になると考えられているらしい。全体の中での苦味のバランスを上手に扱えるようになると、「にがい」は「美味しい」になるのかもしれない。

この春バーゼルと日本でフランク・マルタンの「ギターのための4つの小品(1933)」を演奏する(Frank Martin (1890-1974) “Quatre pieces breves pour la Guitare“)。 マルタンはスイス人の作曲家で、この作品はそのむかし東京国際ギターコンクールの課題曲にもなっていた。シンプルで調性もあり、決して難しい技術が必要とされるわけではないのに、楽章ごとに確固としたコンセプトがあり、そこから生まれる音楽がおそろしく悪魔的で美しいことに衝撃を受けた。タイトルのとおり4楽章あり、何かにひきのばされていくような12音技法によるメロディからはじまる「プレリュード(Prélude)」、教会旋法(これはリディア・スケール)を使った美しい「アリア (Air)」、当時の時代背景から自ずと推測される「嘆き(Plainte)」、そして最後に悪魔的にすら感じる躍動感を持った楽章「ジーグのように (Comme une Gigue)」で構成されている。ギタリストの中でも好き嫌いがはっきり分かれるこの作品を、何故だかわからないが当時の私は無性に好きになってしまった。同時に自分の知識に限界を感じ、留学したいと考えるようになったのもこの曲あたりからだった。

春にふきのとうが食べたくなるように、長いながい時間を経て再びこの作品を演奏できることが、今の私にはすごく嬉しい。そして、少し苦味のある作品が自然に聴ける、聴きたいと思えるプログラムにするにはどうしたらいいのか、私はずっと考え続けていきたい。

 

 

(春のコンサート情報)※新コロナウイルスの影響により中止となりました。誠に申し訳ございません。 

バーゼル(スイス)

3月26日(木)19:30開演 クライネス・クリンゲンタール博物館ホール

Ensemble „B“ Kammermusik Konzert   詳細

 

日本

4月15日(水)19時開演 杉並公会堂小ホール

アンサンブル・バジリア「吟遊詩人の歌」 詳細

 

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