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音をかきわける

今月5つの小品を採譜した。ピアノ作品がリコーダーとギターのためのデュオに編曲されたもので、楽譜がなかったのでネット上の動画から採譜した。

私はこの作業、いわゆる「耳コピ」が結構好きだ。そのむかし音楽雑誌で様々なポップ&ロックバンドの新曲を採譜する作業に関わらせて頂いたとき、いくつかの手順を教えてもらった。

バンド曲の採譜では、まず曲全体の「サイズをつかむ」ことからはじめる。イントロは何小節、Aメロは何小節あるのか、その拍数を数えていく。その上で繰り返し記号を使うのか、D.S.やコーダで対応するのか等を決め、譜面の枠を作っていく。ざっくりとしたハーモニーはギターでだいたい推測できるのでそこから調号を書き出した後、ベースギターの音を追っていく。なぜならベースの音をたどっていくと、正確なハーモニーを確認しやすいからだ。いろんな音がたくさん鳴っていてぱっと聴いただけではコードがよくわからない時、一番低いベース音を聴くことで「ああやっぱりそうか」と確信を持つことができることがある。ちなみに私はよく、曲の中から聴こえてくるベースギターの動きに感動する。特にポップスで、なんだかわからないけれど聴いていてドキドキする曲というのは、たいていベースの動きがカッコいい。バンドを支えるのはベーシストだと勝手に思っている。古楽の世界でも、メロディに通奏低音のみが楽譜上に書き残されてきたことを考えると、バス音の動きがいかに重要視されていたかが感じられる気がして、面白い。

話をもとに戻そう。今回の作品はピアノのオリジナル譜もあり、動画で音だけでなく指の動きも観られるのでそれほど大変な作業にはならないだろうと思っていた。しかし久しぶりにやってみたらそれなりにけっこうな時間がかかってしまった。

不思議なもので、音を「可視化」することは自分の耳にも影響を及ぼす。いったん楽譜に書き起こした音符を見ながら音源を聴いていくと、今まで曖昧にしか聞こえてこなかったものが急にくっきり聴こえてくることがある。今回も楽譜をたどりながら突然、今まで全く聞こえなかった高音に気がついて「今の何!?」とびっくりすることが多々あった。

また、今回は音をとることだけではなく、アレンジとして「なぜその音なのか」という理由を探し当てることにも時間がかかった。オリジナルと違う音を出している箇所は、その音のハーモニーが本当にあっているかを原譜と照らし合わせていかなければならない。同じ和音でもギターで自然によく響く構成音の順序に変えることなどは、私は間違いではない気がする。じゃあどこまでが「良く」て、どこからが「いけない」ことなのだろうか?基本的にオリジナルにとても忠実な音をとっているアレンジだけに、オリジナルと「違う」音には立ち止まらずにはいられない。それらには、どうしてそうしたのかすぐにわかるものと、しばらく考えなければならないものがあった。そしてその「理由」が自分なりにわかった時、「ああそうだったのか」と、編曲者であり演奏者である彼らに対し、改めてリスペクトを感じるようになっていった。

というわけで今回私は採譜をしたことでいろいろなことを勉強させてもらった。と同時に、今自分が用意すべきプログラムに必要な作品はこの5曲以外全てちゃんとした楽譜がある、ということに対して、あぁありがとうございます涙!と思わずお礼を言いたくなった自分がいることにも笑ってしまった。たまにやってみたくなる、時間がかかるけどワクワクする作業。やっぱり私は好きだ。