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ふつうの少年

今月ウクライナから来た14歳の少年にギターを教えることになった。

音楽学校から連絡があった時、正直どんな子か全くイメージできない自分がいた。ただ、ウクライナからスイスに逃れる際に「彼はギターを持ってきたんだ」ということが、頭の中をぐるぐると駆け巡った。そして実際に会った本人はほんとうに、私が全く想像できなかったタイプの少年だった。

14歳の少年は、私よりはるかに長身で、私は一瞬韓流スターを思い出した。お洒落な子だな、と思っていると、静かな落ち着いた口調で「英語でレッスンをしてほしい」と言い、「自分はウクライナで習っていたギターの先生に才能があると言われました。」と言った。そして取り出したギターはクラシックではなく、鉄弦の黒いアコースティックギターだった。それなりに考えて用意していたものが全部ふっとんだ気がした。それでも自分が演奏できるヒッティングやスラップを含んだ曲を弾くと、目をキラキラさせて「すごい!どうやったらそんなふうに弾けるの!」と訊いてきた。やっぱりこの子は14歳なんだな、と思った。そしてこのごくふつうの少年の人生が、本人と直接は関わりがなかったであろうものに大きくふりまわされてしまったのだという事実に愕然とした。

一応これまで弾いてきたものを本人に弾かせてみると、まだとても初心者だったが確かに右手の動きは良かった。そこで「私がここで教えるのはクラシックギターで、あなたが習ってきたものとは違うかもしれない。でももしあなたに才能があるなら私は基礎を教えることはできる。それはあなたの将来にとって無駄にはならないと思う。」と伝えた。すると彼は「はい、僕はそういうのを習いたいです。」と言った。それを聞いて、私はこの子に期間限定でクラシックギターの奏法を教えていくんだ、と決心した。私の役割は彼にとってあくまでも期間限定でなければならない。そして彼に才能があると言ったウクライナのギター教師は、彼が祖国に帰るまで、絶対に生きていなければいけない。