ほんまなひと
およそクリエイティブな人とは、物事をポジティブに受け、地味な作業にも手間を惜しまず、イメージがカタチになるまであきらめない人のことを言うのではないかと思う。
ほんまちひろという詩人はそういう人だ。この春私が日本に帰れなくなったことを知った彼女から「一緒に朗読と音楽の動画を作ろう」と提案された。
そのとき彼女がなぜ今なのか、について「だってやろうと思えば今までだって作れたんだよ。でも作らなかった。今この状況をきっかけにしなきゃ。」という主旨のことを言った。ああ本当にそうだな、と思った。そして私が答えた時にはすでに彼女の中にはしっかりとしたイメージが出来上がっていた。
遠隔録音について、当初私は版画の多色刷りのように一つの画像を録音してから重ね録りしていく多重録音アプリを使おうと思っていた。しかし彼女は「お互いの息づかいをきいて同時に録音していきたい」と言った。つまり遠隔ライブ録音だ。高音質で遠隔地でも同時録音ができるものを探して色々なツールを試してみたが、残念ながら2020年5月上旬の時点の自分達には見つけられなかった。そこであれこれ考えた末、SNSビデオチャットに繋いだ携帯電話にイヤホンをつけてお互いの音を聴き(ライブ)、同時にその様子をビデオカメラで撮り(画像)、マイクをつないだPCでお互い自分の音をそれぞれ録る(高音質録音)という、技術的に進んでるんだか遅れてるんだかわからないやり方で作っていくことになった。使っているものはデジタルなのだけれど、限りなくアナログなことをしている気分になった。そしてこれが本当に機能するのかもわからなかったけれど、でもまぁ彼女ならなんとかするだろう、という安心感があった。7時間時差のある自分たちがお互いの声と音をきいて一つのものを同時に作ろうとしている、というのは面白く、なんだか嬉しかった。
撮り終えた後の編集も彼女はすごかった。いつのまにそんなことができるようになったのかわからないが、「出来たよー」と完成データが送られてきた。自分自身の経験から考えてもどれだけ大変な作業だったろうと思うのだが、彼女にはどこかそういった作業ですら嬉々としてやってのけてしまっている感がある。
大学時代、彼女と最初に作った絵本は英語で書かれたアルファベットの詩を入れたCD絵本「ABC Book」だったと思う。小さなスタジオでタコの歌に合わせて彼女がおもちゃのハンドベルを楽しそうに鳴らしていたのを思い出した。たぶん、この軽さが大事なんだと思う。手間を手間とも思わない彼女をみて、やっぱりすごいな、と思った。
さて、今回の作品では彼女はもともと絵を担当していたので「絵・本間ちひろ」となっている。ここではせっかくなので彼女の詩画集「いいねこだった」(出版/書肆楽々)より3つ詩を紹介しようと思う。彼女はこの作品で2004年第37回日本児童文学者協会新人賞を受賞している。
ハリネズミ
あいしあうはりねずみ
きをつける
きずつけないように
あいしあうはりねずみ
きずつけあってしまう
きをつけても
多分無理
国際電話で
ふきのとう ふき味噌の
おいしさ
説明すること
平穏主義
平和というのは難しすぎるかもしれないけど
とにかく、もう少し穏やかに争ってください
だって、わたしの未来の恋人が
どこにいるのか わからないんですもの ね
本間ちゃん、ありがとう。
「ふたりのたからもの」動画
(文・山本優介 絵・本間ちひろ 西村書店)
朗読&ギター
https://www.youtube.com/watch?v=DStaVwGJ9nc
ギターのみ版
https://www.youtube.com/watch?v=66B3hWctcnk
朗読&ギター(英語字幕付き)
https://www.youtube.com/watch?v=NFBiqqcazqc
ギターのみ版(英語字幕付き)
https://www.youtube.com/watch?v=8GlGO6enrf4