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伝えられるうちに

ごくたまに、ホームページにメッセージが届く。今のところすべて海外からで、とても丁寧なドイツ語で書かれたメッセージもあれば「ハーイ、ナナ!」とかなりフランクな英語で書かれたメッセージもある。知らない人からのメッセージは少し緊張するけれど、やっぱり嬉しい。ほとんどがジブリのソロギターについてのお問い合わせで、先月はブラジルの方からの、メッセージだった。

「ソロギターで弾くスタジオジブリ作品集」のCD演奏をさせて頂いたきっかけは日本のギターリーダースクラブ(GLC)が主催する「学生ギターコンクール」だった。当時ヤマハミュージックメディアの担当者とギタリストでありアレンジャーの江部賢一先生が「ジブリを弾く子」を探しにコンクール会場の客席にいらしていて、その時出場していた私を選んで下さった。このことが私の人生を大きく変えてくれたことは言うまでもない。腕を故障しかけた後ようやく出場したコンクールで、ものすごく好きだった「ジブリ」の曲を演奏するお仕事をいただいたことがどれほど嬉しかったかは、いまだに言葉で言い表せない。新しい映画ができるたびに江部先生のアレンジしたジブリ作品を録音する作業は本当に楽しかった。数年後、その録音をハクラレーベル(Sony)が独立したCDにして下さったことも感謝の念に尽きない。

その楽譜を、今海外の方が欲しがっている。不思議な気分とともに、胸が熱くなった。

じつは現在、国内からは「ソロギターで弾くスタジオジブリ作品集」の楽譜は1曲ずつオンラインで購入・印刷できる。「ぷりんと楽譜」というヤマハのサイトからダウンロードできるシステムになっていて、これは非常に画期的なことだと思う。ただ残念ながら2021年3月現在、海外からこのシステムで購入することはまだできていない。だから、回りまわって「オンラインで印刷購入は出来ないのか?」と私のホームページに問い合わせがくる。作品に興味を持ってくれたことへのお礼と、これらの作品が江部先生のアレンジであること、ヤマハミュージックメディアのサイトや紙媒体の楽譜を海外に郵送するサイトなどを紹介した返信を送りながら、毎回自分がなんの役にも立てないことに申し訳なさを感じる。1日も早くこのシステムが海外でも使えるようになったらいいと思う。そして、一番このことを伝えたい江部先生がもういらっしゃらないことに、改めて気付かされる。

今月、江部先生のアレンジされたヴィヴァルディの「春」を動画録音した。

この作品はシンコーミュージックから出版された先生の曲集「ポピュラーアレンジ・クラシック」に収められている。現在絶版となっており、中古の楽譜を扱うサイトからも入手が困難になっている。動画を録音することは自分自身のためでもあるのだけれど、ボサノヴァスタイルでアレンジされたこの素敵な作品を、なんらかの形で残しておきたいと考えた。それは、この作品を知っていて、まだ生きている自分の義務でもあるような気がした。そして今回録音するにあたり、先生のご子息である江部北斗さん、江部聖也さんとも初めてコンタクトをとらせて頂いた。録音のご承諾をいただくことと同時に、お父上のアレンジは世界中で愛されています、という自分がずっと伝えたかったメッセージを、ようやくお伝えすることができた。お伝えしてから、それが今回自分にとっては一番大事なことだったんだ、と気付いた。

人に何かを伝えるのは、思ったより勇気がいる。でも、伝えたいことは、伝えられるうちに、伝えておいた方がいい。


「ソロギターで弾くスタジオジブリ作品集」楽譜
https://www.ymm.co.jp/p/detail.php?code=GTL01081341&dm=d&o=10

「ぷりんと楽譜」(あの日の川・江部賢一編曲)
https://www.print-gakufu.com/score/detail/48859/

A.ヴィヴァルディ「春」動画(アレンジ;江部賢一、演奏:日渡奈那)
https://www.youtube.com/watch?v=9-KYHtjGtOc