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小さい実

ギタートリオでビデオを録画した。

音楽学校の企画で、学校公開のイベントが行えない代わりにそれぞれの楽器の先生が演奏したものをビデオ収録し、ホームページで公開するそうだ。ギターの映像は私と夫のChristoph Borter、ペルー出身のギタリストErnesto Mayhuireの3人で演奏することになった。

ギターは「小さなオーケストラ」ともいわれる楽器、それが3台もあつまれば、かなりいろんなことが出来る。が、夫のクリストフが提案したのは全く逆だった。

コンサートで聴かれることはないものの、ギターには「少し弾けるようになったらすぐ弾ける曲」というのもわりとある。メロディはとてもシンプルだけど先生のおしゃれな伴奏がつくから楽しく演奏できる。はじめてこの楽器をさわる子供たちに、自分はあえてそういった曲を紹介したい、と彼は言った。

たしかにそういうアプローチもあるよな、と思った。そこで色々試した結果、ショット社から出ているLeslie Searleの“Guitar Fun”という曲集に入っているトリオ曲を2つ演奏、収録した。文字どおり、楽しい曲だった。

そして今回3人で弾くことで、私は小さい頃母と妹とトリオで弾いていたときのことを思い出した。

母の先生であった津田昭治先生が自分たちギタートリオのためにアレンジして下さった曲はどれも、子どもの私と妹に演奏可能な、素晴らしいアレンジだった。中でも一番好きだったのはビートルズにバッハのモチーフを取り入れてアレンジされた「イエスタディ」だった。何百回弾いたかわからない。生意気なことを言うと、当時の私には子供にも演奏可能なのに洒落ていて、全然子供っぽくなく聴こえるこの作品を弾けることがすごく嬉しかった。

楽譜は母しか持っていなかったけれど、どんなアレンジだったか思い出してみたくなり、五線譜に書き出してみた。ここで妹が入って、このリズムとコードで母が伴奏して、私はこのモチーフを弾いて・・・と、慎重に記憶をたどっていくと、全員のパートが書けた。それは自分でもちょっと驚きだった。書き出したものを見て改めて、ああ、本当に素晴らしいアレンジだったな、と思った。

ほんとうのことを言うと、今回自分はこの曲をもう一度弾いてみたかったのかもしれない。でも、結果としてこれで良かったと思う。このアレンジは津田先生の作品であり、また私にとって、この曲には思い出がありすぎる。いつか先生が手がけて下さった全てのアレンジ譜が出版されたら、喜んで買いたい。だってそれを弾いてギターが好きになる子が、どこかにいるかもしれないのだから。