楽譜のかたち
ギターを弾いていると、いろんな「楽譜」に出会う。クラシック音楽で広く使われている五線譜、ポップスやジャズで使われるコードネームとその指板図、アコギあるいはリュートのために数字やアルファベットで書かれたタブラチュア(TAB)、私が知らないだけで、たぶん他にもいろいろあるのだろう。
いろんな楽譜が使われるのはそれぞれにメリットがあるから、ということは言うまでもないが、たまに同じ曲を弾くとき別の種類の「楽譜」に置き換えて演奏してみると、自分の頭の中がそれまでとは違った反応をして、面白い。
例えばダウランドのファンタジアを五線譜で弾くときとタブラチュアで弾くときでは何かが少し違う。タブラチュアはシンプルだ。弦と同じ数だけ引かれたラインに、左手が押さえるフレットの位置がアルファベットで書かれているだけで、シャープもフラットも無い。五線譜と比べるとその情報量はおそろしく「少ない」。ただ、すこーんと抜けているぶん、頭もシンプルになる。長いパッセージを表しているのがちょこんと一列に並んだ文字だということに、はじめは驚いたがしばらくするとなんだか可愛く感じてくる。そして、今まで情報が多すぎて見えなかったものが浮かび上がって来たりする。書かれているのが特定の音ではなく文字なのでカポタストを使った移調にも対応しやすく、なんとなく頭が柔軟になってくる。弦を表したライン上に文字が並んでいるのだから、理論上は右手の撥弦も間違えにくくなる。ある意味気分もおおらかで寛容になる(気がする笑)。そしてもう一度五線譜に戻ったとき「あぁ、そうだったのか」と思う。
生徒に教えるときも、例えばヴィラ・ロボスのプレリュード1番などは部分的にTAB譜で書いてみるとシンプルで取り組みやすい。ブローウェルのシンプルエチュード6番を教えるとき、はじめに右手の動きだけを少し練習しておき、その後あえて楽譜は見せずに各小節ごとの左手の指の位置を指板図にして並べて書いてみる。そうすると、1つ指の位置が変わるだけで世界がガラリと変わる驚きを、実感を伴って理解できていくように感じた。最終的には五線譜に戻って取り組んでいくのだが、でもメリットがあるなら同時に他の手段も使っていいじゃん?と思った。使えるものならなんでも使ってみたらいい。
たぶん、楽譜は地図みたいなものなのだと思う。目的地と手段によって必要な情報は違ってくるし、大抵ベストだと思われる地図で表されているけれど、たまに同じ場所について別のタイプの地図で見てみるのも悪くない。
地図は丸い地球を平面に表した。楽譜は見えない音を記号にした。すごいファンタジーじゃないか。